2026年6月
仕事のひとりごと要介護5の患者さん

ある患者さんのことが、ずっと頭から離れません。
90代。要介護5。 「元気になって、孫と一緒に出かけたい」と、検査中にやさしく話してくれました。
でも現実は、その希望とはずいぶん遠いところにあります。
ほぼ自力では動けず、ご家族の負担を減らすために導尿が続いています。90代になっても、ご本人名義の住宅ローンがまだ残っていて、それをご家族が肩代わりしながら、自分たちのローンも払っている。お金も時間も、もう限界まで使い切っているように見えます。
「このままでいい」「現状維持で」と繰り返すご家族の言葉の裏に、疲れきった様子が見え隠れします。
ネグレクトとは言い切れない。でも、放っておかれているようにも感じてしまう。
私たちは、その患者さんのわずかな希望だけでも叶えてあげたくて、施設への入所をお勧めしています。プロの手で、きちんとケアを受けてほしいから。
困ったとき、使える制度があります
こういう状況で「もう限界」と感じたとき、どうか一人で抱え込まないでほしいと思います。知っておくと助けになる制度を、少しだけ紹介させてください。(少し事務的になりますが、大切なことなので。)
| 制度 | どんな制度? |
| ① 特別養護老人ホーム(特養)の入所申請 | 要介護3以上で申請できる公的施設。収入に応じて費用が減る制度(負担限度額認定)もあります。待機期間があることが多いので、早めに動くのが大切。 |
| ② 高額介護サービス費の払い戻し | 介護サービスの自己負担が、ひと月で一定額を超えた分は戻ってきます。申請しないと受け取れないので、ケアマネージャーに確認を。 |
| ③ 介護保険負担限度額認定 | 施設に入所したときの食費・居住費を、収入に応じて軽減できる制度。低所得の場合は大幅に抑えられます。 |
| ④ 地域包括支援センターへの相談 | 「何から手をつければいいかわからない」段階でも相談OK。介護・医療・お金・法律、どこに繋げばいいか一緒に考えてくれます。無料。 |
| ⑤ 成年後見制度 | 本人が意思決定できなくなったとき、財産や契約を守るための制度。ローンの処理など複雑な財産問題があれば、専門家(社会福祉士・弁護士)への相談も視野に。 |
どれも「知らなかった」で損をしてしまう制度ばかりです。まずはケアマネージャーや地域包括支援センターに相談することが、いちばんの近道だと思います。
「正しいこと」と「できること」のあいだで
この仕事をしていると、「正しいこと」と「できること」の間で立ち往生することがあります。
患者さんの意思と、ご家族の事情と、制度の限界と。 どれも間違いじゃないのに、噛み合わない。
割り切れない気持ちを抱えたまま、それでも今日できることを、ひとつずつ。
そして、これは他人事ではありません
私自身も、親を介護する立場になる日が、すぐそこまで来ています。
自分の生活と、親の希望と。 親が自力で動けなくなったとき、私には何ができるのだろう。
考えておかないといけないと思いながら、なかなか向き合えずにいます。
それからもう一つ、正直に書いておきたいことがあります。
私は、自分の子供に同じ思いをさせたくない。
介護が必要になったとき、子供の生活を壊したくない。お金のことも、時間のことも、できる限り自分で準備しておきたいなと思っています。
まだ具体的に動けているわけではないけれど、今のうちから少しずつ。
同じように悩んでいる方が、きっとたくさんいるはずです。答えはまだ出ていないけれど、「一人じゃない」と思えたら、少しだけ気持ちが軽くなる気がします。