2026年8月
家計・節約のこと畑って、何ですか|空き家の名義変更は終わった。でも、まだ売れない
葬儀のあと、はじめて義実家のある土地へ行った。
納骨をどうするか。墓じまいをどうするか。これから、どうするか。話すことは、いくらでもあった。お寺へ相談に行ったのも、この日だ。
その席で、ごきょうだいが1枚の紙を出してきた。固定資産税の納税通知書だった。ずっと、そちらで払ってくださっていたものだ。
受け取って、広げた。
この紙を、毎年見ていたはずなのに
最初に浮かんだのは、こういう気持ちだった。
この紙を今まで見てきて、何も疑問に思わなかったのだろうか。
でも、そう思ってすぐに気がついた。人のことは言えない。私だって、自分の家の納税通知書を毎年受け取っている。封を開けて、金額のところだけ見て、そのまま引き出しに入れてきた。
金額しか見ていなかった。大事なことは、うしろの明細のほうに全部書いてあったのに。
8万円のはずが、16万円だった
先に、名義変更の話をしておきたい。
最初にうかがったときは、8万円くらいだと聞いていた。ところが、蓋を開けてみたら16万円だった。
高いと思った。
名義を変えるだけではないか、と思ったのだ。私は前に、住宅ローンを返し終えたあとの抵当権抹消登記を、自分でやったことがある。法務局に2回通って、実費は数千円で済んだ。あれと同じようなものだろう、と。
——実際は、まったく違った。
抵当権抹消のときは、銀行が書類を一式そろえて送ってくれた。私がしたのは、申請書を書いて持っていくことだけだ。
相続登記は、そうはいかない。まず、亡くなった人の戸籍を生まれまで遡って、相続人が誰なのかを確定させなければならない。そのうえで、相続人全員の戸籍と印鑑証明と住民票を集める。
そして、名義は1人ではなかった。義父、義母、そしてずっと前に亡くなっていた義祖母。3人分である。
戸籍のたぐいを取り寄せた領収書が残っている。
▲ 8点で5,450円。名義が3人いると、こうなる。
| 書類 | 通数 | 金額 |
|---|---|---|
| 除籍謄抄本 | 3 | 2,250円 |
| 原戸籍謄抄本 | 4 | 3,000円 |
| 戸籍附票 | 1 | 200円 |
| 合計 | 8点 | 5,450円 |
この8点は、書類集めのほんの入口だ。ここに相続人全員分の書類が加わる。見積もりが倍になったのは、名義が3人だと分かってからだった。
前に「あと回しにされた手続きは消えない」と書いた。それが、金額という形で返ってきたわけだ。
ひとつ、正直に書いておく。司法書士さんの報酬は、事務所ごとに違う。 一律の決まりがあるわけではない。私は、義実家のある土地の司法書士さんにお願いした。そのほうが何かと動きやすいだろう、と思ったからだ。ほかの事務所と比べてはいない。
だから、16万円が高かったのかどうか、私には分からない。相場のうちだろうと思っている。高いと感じたのは、私が相場を知らなかったからだ。
畑って、何ですか
さて、納税通知書である。
金額の紙のうしろに、課税明細書という細かい紙がついている。そこの土地の欄を見て、手が止まった。
上下、2段になっている。
- 上段 畑 約330平方メートル
- 下段 宅地(住宅用地) 約330平方メートル
面積が同じだ。二か所あるのではない。ひとつの土地を、2通りに書いている。
そして、上に「畑」と書いてある。
畑って、何ですか。それが、そのときの感想だった。そこに住宅は建てられるの? 義家族が暮らしていた家が、50年近くそこに建っているのに。
帳簿が、二つあった
調べてみて、ようやく分かった。
同じ土地について、帳簿が二つある。
| 帳簿 | どこ | この土地は |
|---|---|---|
| 登記簿 | 法務局 | 畑 |
| 課税台帳 | 市役所 | 宅地 |
固定資産税は、登記簿がどうであれ、いまの姿を見て課税される。だから市役所は宅地として扱っている。ずっと家が建っているのだから、当然だ。
一方、法務局の登記簿のほうは、誰かが手続きをしないかぎり変わらない。昔、畑だったころのまま止まっている。
税金の面では、何も困らない。困らないから、誰も気づかない。問題がないから、誰も教えてくれなかった。
税金が安かったのは、畑だからではなかった
もうひとつ、思い違いをしていた。
畑という扱いだから土地の税金が安いのだろう、と考えていたのだ。そうではなかった。
明細を計算してみると、土地の評価額は190万円ほど。それに対して、税額のもとになる金額は45万円ほどまで下がっている。これは、住宅用地の特例という仕組みの計算とぴったり合う。家が建っている土地は、税金のもとになる金額が6分の1から3分の1に抑えられるのだ。
つまり、安いのは畑だからではなく、家が建っているからだった。
ということは、登記簿を宅地に直しても、固定資産税は変わらない。ここは、少し安心した。
ちなみに、この家の年間の固定資産税は3万6,000円ほどである。内訳を見て、これも意外だった。
- 土地 6,000円ほど
- 家屋 3万円ほど
八割以上が、建物にかかっている。 昭和58年に建った木造二階建てで、床面積は150平方メートルほど。40年以上たっているのに、家屋の評価額は土地より高かった。
司法書士さんの仕事は、ここまでだった
名義変更そのものは、無事に終わった。土地も建物も、相続人の名義になった。
ただ、登記簿の「畑」は、そのまま残っている。
これは司法書士さんの落ち度ではない。登記には種類があって、担当する資格が分かれているのだ。
| やること | 誰に頼むか |
|---|---|
| 名義を移す(相続登記) | 司法書士 |
| 地目を畑から宅地に直す | 土地家屋調査士 |
| その前提になる証明 | 農業委員会 |
| 売る | 不動産会社 |
こちらから聞かないかぎり、担当外のことは出てこない。知らないと、止まる。 それだけのことだった。
そして、畑のままでは売れない。登記の地目が田や畑だと、買主へ名義を移す登記に農地法の許可が要る。それに、農地は原則として農家しか買えない。つまり、買い手がつかない。
順番は、こうなる。農業委員会で「これは農地ではありません」という証明をもらう。それを添えて、土地家屋調査士さんに地目を直してもらう。そのあとで、ようやく売る話になる。
平日しか、動かない
ここからが、しんどいところだ。
役所も、法務局も、士業の事務所も、土日祝は休みである。私は働いているので、平日の昼間は電話にも出られない。相手も同じように、いつも席にいるわけではない。
働き方改革という言葉があるのに、こういうときだけ「もっと連絡がほしい」と思ってしまう。言えないけれど。
そのうえ、義実家は遠い。行こうと思えば、まる1日かかる。
そして、動いているのは私だけだ。ごきょうだいは、この件にはタッチしない。名字だけを継いだ人間が、50年前に誰かが手続きをしなかった土地のことで、電話をかけている。
それでも、止まっていたのは一つだけだった
先日、少し調べてみて、思い違いに気づいた。
待たなくていいことが、2つあった。
ひとつは、登記の内容は自分で確認できるということ。登記事項証明書は誰でも取れる。インターネットからでも申し込める。数百円で、いまの名義も、地目も、その場で分かる。誰かが書類を送ってくれるのを待つ必要はなかった。
もうひとつは、農業委員会の相談は、いつでも始められるということ。電話1本で、必要な書類も手順も教えてもらえる。誰かの手続きが終わるのを待つ理由はなかった。
「遠いから」「相手がつかまらないから」で、全部が止まっていると思い込んでいた。数えてみたら、本当に止まっていたのは一つだけだった。
書類の受け取りと、支払い。それだけだ。
金額しか見ていなかった紙の、うしろのほうに、この半年ぶんの宿題が書いてあった。
次は、農業委員会に電話をするところからだ。

おひとりさま検査技師
臨床検査技師として病院に30年。生理検査全般を担当、とくに超音波検査(おもに心エコー)。地方在住・50代・おひとりさま。 検査室から見えることと、暮らしのことを書いています。詳しいプロフィール


