2026年8月
日々のひとりごとお坊さんは、私を見なかった|義実家の墓じまいで言われたことと、かかるお金
義実家の空き家を売る前に、片づけておかなければならないことがあった。お墓のことだ。
お骨は、いま、ごきょうだいの家にある。
私は、名字だけを継いでいる。この家に、ほとんど関わってこなかった。それでも、話を進める役は、私に回ってきた。
お坊さんは、私を見なかった
相談に行ったお寺のお坊さんとは、初対面ではない。何十年も前、義親の葬儀でお会いしている。
その方が、私を見なかった。
こちらの話を聞くとき。うなずくとき。説明をするとき。視線は、ずっとごきょうだいのほうを向いていた。私がいる側には、一度も向かなかった。
気のせいかもしれない。そう思おうとした。
でも、あの部屋で、私はいないことになっていた。名字を継いでいるのは、私のほうなのに。
言われたのは、こういうことだった
こちらが望んでいたのは、単純なことだった。納骨をせずに、そのまま墓じまいにする。 お金のこともあって、そう考えていた。
返ってきたのは、こうだ。
一度、納骨をする。戒名をつける。しばらく、みなさん一緒にしてさしあげる。そのうえで、墓じまいをする。
順番に、それぞれお金がかかる。
お金の話になった
言われた内容を、うちの場合として書いておく。
- 墓じまいのとき、お墓に入っているご遺骨ひとつにつき5万円
- それとは別に、30万円
- 戒名、納骨、お経は「お気持ちで」
- ほかに、墓石を処分する費用
「お気持ちで」と言われたぶんを足していくと、どうやら100万円を超えるらしい。
お坊さんは、心情の話を、とても丁寧にされた。ご先祖のこと。供養の意味。残される者の気持ち。言葉は、たしかに巧みだった。
でも、私には響かなかった。
私を見ずに、心情を説く。 そのちぐはぐさが、どうしても飲み込めなかった。
お寺にも商売がある。それは分かる。分かるけれど。
調べてみたら、そうしなくてもよかった
家に帰ってから、調べた。同じ立場の方のために、分かったことを書いておく。
- 離檀料に、法律上の支払い義務はない。 慣習として定着してはいるが、相場は5万〜20万円とされている。請求されるままに払わなければならないものではない
- 改葬の許可を出すのは、役所だ。 手数料は数百円から千円ほど。ただし、お墓のあるお寺が「埋葬証明書」を出さないと、自治体は改葬許可証を発行できない。話が止まるのは、たいていここだという
- でも、止まったままにはならない。 証明書がどうしても用意できないときは、お墓の写真や、出してもらえなかった経緯を書いた書面などで代えられることがある。国から自治体あてにも、その例が示されている。まずは、お墓のある市区町村の窓口に相談してほしい。 ここは、知っているかどうかで、ずいぶん違うところだと思う
- 戒名は、必ずしも要らない。 宗旨宗派を問わない永代供養墓や樹木葬なら、戒名がなくても、俗名のままでも納めることができる
つまり、「一度納骨して、戒名をつけて、しばらく置いてから墓じまい」は、制度として必要な手順ではなかった。あのお寺のお考えだ。
私が最初に考えていた道は、ちゃんとあった。
手元のお骨と、お墓のお骨は、まったく違う
調べていて、いちばん腑に落ちたのが、ここだった。
同じ「お骨」でも、いま手元にあるお骨と、すでにお墓に入っているお骨とでは、必要な手続きがまったく違う。
- 手元にあるお骨は、まだお墓に納めていないので、法律でいう「改葬」にあたらない。だから、お寺の埋葬証明書も、役所の改葬許可証も要らない。永代供養墓や樹木葬に納めるときに必要なのは、火葬のときに受け取った「火葬許可証」(火葬済みの印が押され、「埋葬許可証」として使えるようになったもの)だ
- お墓に入っているお骨は、取り出して他へ移すことになるので「改葬」になる。こちらは、お寺の埋葬証明書、そして役所の改葬許可証、という順番が要る
この書類の名前が、じつにややこしい。一枚の紙が、途中で名前を変えるからだ。
火葬の前は「火葬許可証」。火葬が済むと、その紙に「火葬済」の印が押されて、そのまま「埋葬許可証」になる。新しく別の紙をもらうわけではない。 納骨のときは、これを墓地の管理者に出す。
私も、ここで混乱した。分からなかったので、調べた。(自治体によって、書式や呼び方が少し違うことがあるらしい)
この二つを分けて考えたら、あの日に言われたことの意味が、はっきりした。
手元にあるお骨を、いったんお墓に納める。すると、そのお骨も「お墓に入っているお骨」になる。あとで墓じまいをするときには、改葬の手続きが要ることになる。
納めなければ、要らない手続きだった。
うちの場合、その火葬許可証は、ごきょうだいが持っている。そういえば、相談の日にも、その紙のことは聞かれた。なくさないようにしなければならない。あれがないと、どこにも納められない。
言葉が分からないまま座っていると、こういうことが分からない。分からないまま、うなずいてしまう。 調べてよかったと思うのは、そこだ。
※ 制度や相場は地域によって差がある。どの書類で認めるかも、最後は自治体の判断になる。実際に進めるときは、お墓のある市区町村の窓口で確かめてほしい。
※ ただし、窓口へ行けばすぐに代わりの書類で通る、という話でもない。国から示されている考え方は、「市町村は、まず墓地の管理者に証明書を出すよう促す。それでも断られたときは、代わりの書面で差し支えない」という順番になっている。だから役所から「先に、お寺さんと話してみてください」と言われることは、実際にある。意地悪をされているわけではなく、そういう手順なのだ。その場合は、いつ、誰に、どう頼んで、どう断られたのかを、日付とともに書き留めておくとよい。あとで役所に説明するときに、この記録がそのまま効いてくる。
※ 相談先を、ひとつ書き添えておく。お寺との交渉やもめごとを、代理人として引き受けられるのは弁護士だけである。行政書士に頼めるのは、改葬許可の申請書類を作ってもらうところまで。金額に納得がいかない、話がこじれた、というときは、弁護士に相談することになる。
田舎では、役所に駆け込めば済む、とはいかない
これは、あとから分かったことだ。
あの土地は、商店も会社も、絶妙に絡み合っていた。何かをするならここ、これはここでなければ買えない。そういう、地域に密着した田舎だった。
だから私は、面倒なやり取りをしなくても、ここの行政に直接言えば、なんとかなるだろうと思っていた。
そうはいかないらしい。まずは、お寺さんとしっかり向き合ってからになりそうだ。正直、心が折れそうになる。
田舎では、仕方のないことなのだと思う。誰かに悪意があるわけではない。ただ、ひとつ、手間が増える。同じように悩んでいる方には、そこを知っておいてほしい。
もう、この土地には来ない
墓じまいをすれば、この土地に来る理由がなくなる。
帰省ということも、なくなる。
ごきょうだいは、すでに他県で暮らしている。もう未練はない、と言っていた。この土地には親戚もいて、みなさん、本当にいい方たちだった。それでも、そういうことになる。
ただ、あの日から、ごきょうだいは迷っているように見える。お坊さんの言葉が、効いているのだと思う。
そして、お金は誰が出すのか。その話は、まだしていない。
私は、冷たいのだろうか
納骨をせずに墓じまいにしたい。そう考えた自分のことを、冷たいと思う人はいるだろう。
私自身、思わなかったわけではない。
でも、行かなくなるお墓に、100万円を超えるお金を払う。そのお金は、誰が出すのか。誰も来なくなったあと、そのお墓は、どうなるのか。
考えているのは、そういうことだ。
自分の最期は簡素でいい、と思っている。私が樹木葬を選ぼうと思う理由にも書いた。それなのに、他家のお墓の前では、こんなに立ちすくんでいる。
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おわりに
墓じまいは、難しい。
制度のことでも、お金のことでもない。あの部屋で、誰の顔を見て話すか。たぶん、いちばん難しいのは、そういうところだ。
お寺を出ると、外は明るかった。山に囲まれた、静かな土地だった。
これで最後にしたかった。
でも、まだ最後ではなかった。
こうして書いてみて、少し冷静になれた。調べて、並べて、読み返したからだと思う。書いてよかった。
ただ、冷静になったぶん、これからが難しくなるような気もしている。そう思うと、頭が痛い。

おひとりさま検査技師
臨床検査技師として病院に30年。生理検査全般を担当、とくに超音波検査(おもに心エコー)。地方在住・50代・おひとりさま。 検査室から見えることと、暮らしのことを書いています。詳しいプロフィール


