2026年8月
健康・検査のこと肺活量の検査で、なぜあんなに応援されるの?|COPDと、自分の数値を測ってみた話
健診で、肺活量の検査を受けたことはありますか。
鼻をクリップでつままれて、マウスピースをくわえて。「大きく吸ってー、はい、吐いてー、まだまだ吐けますー、もっともっとー!」——技師が、びっくりするくらい必死に応援してくる、あの検査です。
あの応援、私です。ときどき、若い方に笑われます。
今日は、なぜあんなに必死なのかという話と、この検査で見つけたい病気の話を書きます。そして最後に、自分で受けてみたら、人に言うほどできなかったという、少し情けない話も。
掛け声ひとつで、数字が変わるんです
肺機能の検査は、少し変わった検査です。採血のように「じっとしていれば終わる」ものではなくて、受ける方の頑張りが、そのまま結果の数字になるのです。
だから私は、自分も一緒に検査を受けているつもりで、声をかけます。真面目に、ときには、こちらの息が苦しくなるくらい必死に。
そして、あの掛け声は、ただの応援ではありません。私は、画面に出てくる波形を見ながら声をかけています。 出だしの勢いが足りないのか、途中で息が止まってしまったのか、最後まで吐き切れていないのか。波形の形には、意味があるんです。 足りないところが見えるから、そこを補うように「もっと強く」「まだ吐けます」と言っている。
顔が真っ赤になるまで頑張っていただくことになります。申し訳ないのですが、頑張ったぶんだけ、正確なデータが出ます。 それが、次に説明する判定につながります。
4つのどこに入るか、で見ています
この検査はスパイロメトリー(spirometry)といいます。結果は、大きく4つのどこに当てはまるかで見ていきます。
見るのは2つの数字だけです。
- %肺活量(%VC) … 吸い込める量。同じ年齢・性別・身長の人の予測値と比べて何%か
- 1秒率(FEV1%) … 思い切り吐いたとき、最初の1秒で何%吐き出せるか
| パターン | %肺活量 | 1秒率 | どういう状態か |
|---|---|---|---|
| 正常 | 80%以上 | 70%以上 | 吸えるし、吐ける |
| 拘束性 | 80%未満 | 70%以上 | 吸い込める量が少ない(肺がふくらみにくい) |
| 閉塞性 | 80%以上 | 70%未満 | 吐き出しにくい。COPDや喘息はここ |
| 混合性 | 80%未満 | 70%未満 | 両方の要素がある |
報告書には、この4つを図にしたものが載っています。自分の結果が、どこに点を打たれるか。
▲ 私の結果。右上の「正常」に点がついています
吐き出せなくなる病気、COPD
この検査で見つけたい病気のひとつが、COPD(慢性閉塞性肺疾患:chronic obstructive pulmonary disease)です。上の表でいうと、閉塞性のところ。
たばこの煙などの有害な物質を長いあいだ吸い込むことで、空気の通り道や肺に炎症が起きて、息を吐き出しにくくなっていく病気です。日本では原因の多くが喫煙とされていて、「肺の生活習慣病」とも呼ばれます。
ただし、原因は喫煙だけではありません。受動喫煙、大気汚染、粉じん、仕事がら吸い込むもの、呼吸器の感染など、たばこを吸わない方でもかかることがあります。
そして、この病気のつらいところ。一度壊れてしまった肺は、元には戻らないとされています。 治療の目的は、症状を軽くして、進行を防ぐこと。だからこそ、早く気づくことに意味があります。
日本のCOPDの患者さんは、40歳以上の約12人に1人、推定530万人以上といわれています。ところが、実際に治療を受けている方は約38万人(令和5年の調査)。つまり、大半の方が気づいていないか、受診していないまま。息切れを「歳のせい」と思って、見過ごされやすい病気なんです。
「タバコなんて、吸わなければよかった」
検査室で、忘れられない言葉があります。
息を吸うのも、吐くのも苦しそうな方でした。検査台の前で、肩で息をしながら、ぽつりとおっしゃったんです。
「タバコなんて、吸わなければよかった」
私は、なんと答えたのか覚えていません。ただ、あの声だけが残っています。
COPDは、苦しい病気です。息が吐き出せないまま、日常の動作ひとつひとつが、少しずつ大変になっていく。
解剖の場で、黒くなった肺を見たこともあります。長い年月の煙が、そのまま肺に残っている。あの色は、検査の数字よりも、ずっと雄弁でした。
電子タバコなら、いいの?
最近は、電子タバコや加熱式たばこもありますね。体への影響のデータは、これから積み上がっていく段階だと思います。
だから断定はできません。ただ、検査室から言えることは、ひとつだけです。吸わないことが、いちばんです。
私も、測ってみました
さて、ここからは自分の話です。人に「まだまだ吐けます!」と言い続けている私が、受ける側になってみました。
結果は「換気障害のパターン:正常」。肺活量は予測値の124.8%、1秒率は110.1%。数字だけ見れば、まずまずでした。
……が。ひとつだけ、明らかに低い項目があります。
PEF(ピークフロー)、予測値の65%。
これは「吐き出しはじめの、いちばん強い勢い」を表す数字です。最初の一気の吹き出しで決まるので、いちばん努力に左右される項目なんです。
つまり、これは肺の問題ではありません。私が、最初の一発を出し切れていないのです。
何回やっても、自分に甘くなる。「もう一回」と思っても、どこかで力を抜いてしまう。人には、あんなに言うのに。
▲ 下のグラフ、点線が予測曲線です。私の線は、出だしの山が届いていません
鼻をクリップで閉じられて、マウスピースをくわえる。自分でやってみると、これがかなり苦しい。息を吐き切ったあとの、あの何とも言えない苦しさ。あれを、私は毎日お願いしていたのかと思いました。
だから、これからも応援します。笑われても、やめられません。あの掛け声は、その人の本当の数字を出すために、必要なものだと、身をもって分かってしまったので。
気になったら、どうすれば?
COPDを早く見つけるために、こんな項目を確かめる質問票があります(COPD-PSという、公開されているものです)。
□ 痰 … 咳をしたとき、痰やねばつくものが出ることがありますか
□ 活動 … この1年で、呼吸のせいで以前より動かなくなったと感じますか
□ たばこ … これまでの人生で、たばこを100本以上吸いましたか
□ 年齢 … 40歳以上ですか
これらを点数にして、合計が一定以上ならCOPDの可能性を考える、という使い方をします。当てはまる項目が多い方は、一度、肺機能検査を受けてみてください。
健診のオプションで受けられることもありますし、呼吸器内科で相談すれば受けられます。痛い検査ではありません。頑張って吐くだけです(私が応援します)。
息切れを「歳だから」と放っておくと、動くのがおっくうになって、体力も落ちていく。そうやって、じわじわ進んでいくのがこの病気です。
次に健診で「まだまだ吐けますー!」と言われたら、思い出してください。マウスピースの向こうで、技師も一緒に息を止めています。そして——たぶん、その技師も、自分では出し切れていません。
息が切れることを、歳のせいにしてしまう。私の母も、しんどいと言いながら、よく動いています。(しんどいと言いながら、母は元気だった)
※ この記事は一般的な情報と、私自身の検査結果です。診断・治療については、必ず医療機関でご相談ください。

おひとりさま検査技師
臨床検査技師として病院に30年。生理検査全般を担当、とくに超音波検査(おもに心エコー)。地方在住・50代・おひとりさま。 検査室から見えることと、暮らしのことを書いています。詳しいプロフィール


