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おひとりさま検査技師のひとりごと
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2026年9月

健康・検査のこと

ある日、糖尿病の基準値が0.4%上がった|それでも私が数字を気にする理由

先に、結論から。
・医療の基準値は、時代とともに動きます。血圧の「正常」は60年で大きく変わり、HbA1cは2012年に表記が0.4%ずれました
・動くのは、医学が間違っていたからではなく、検証の方法が進んだからです
・だからといって、数値を気にしなくていいわけではありません。今ある線は、今いちばん確からしい線です

健診の結果票に並んだ数字を、多くの方が「決まっていること」として見ていると思います。基準値を超えたか、超えなかったか。

でも私は、その基準値のほうが動く場面に、現場で立ち会ったことがあります。

医療の数字は、思われているほど固いものではありません。それでも、気にする価値はあります。この2つは、矛盾しません。

2012年にHbA1cの表記がJDS値からNGSP値に変わり、同じ血液でも数字が0.4%上がったことを示したイラスト

▲ 2012年4月1日、同じ血液の数字が0.4%上がりました。

ある日、糖尿病の基準が0.4%動いた

2012年4月1日。HbA1cという検査値の表記が、JDS値からNGSP値に切り替わりました。

日本だけが使っていた測り方を、国際的な測り方に合わせる。それだけの変更です。ただ、換算すると数字が0.4%上がります。それまで6.0%だった方は、6.4%になりました。血糖の状態は、何ひとつ変わっていないのに

診断の線も動きました。JDS値6.1%以上だった糖尿病型が、NGSP値6.5%以上になります。

数字だけ見れば0.4。でもHbA1cにとって、0.4はかなり大きい数字です。5.8と6.2では、受け止め方がまるで違います。私たちが日々、0.1の動きを見ている検査で、いきなり0.4動く。

💡 検査技師の豆知識:0.4という数字
JDS値とNGSP値の正式な換算式は「NGSP値=1.02×JDS値+0.25」です。実際に計算すると、JDS値が5.0〜9.9%の範囲では、ちょうど+0.4になります。診断のカットオフ値がこの範囲に入っているので、現場では「+0.4」で覚えていました。ちなみに4.9%以下では+0.3、10%以上では+0.5と、少しずつずれます。……この換算表を、しばらく手元に貼っていました。

だから移行期間には、両方を併記しました。それまで積み上げてきたデータを引き継ぐために、しばらくのあいだ、ひとつの検査値を二通りで載せ続けたのです。

これが、思っていたよりずっと大変でした。

まず、説明です。患者さんへの説明の前に、院内で説明する必要がありました。

これは誰かが理解不足だったという話ではありません。長年ひとつの数字で診てきたものが、ある日から0.4ずれる。混乱しないほうがおかしいのです。

そのあとに、患者さんからの問い合わせが来ます。「なぜ2つあるのか」「どちらが本当の値なのか」「急に上がったのはなぜか」。1件ずつ説明します。0.4という差は体の変化ではなく表記の変更なのだと伝える。言葉にすれば一行ですが、納得していただくまでには時間がかかります。

数字が動くというのは、紙の上の話では済みません。誰かが説明し、誰かが受け止め直す。その手間ごと発生します。

数字が変わっても、体は変わっていない

このとき私が強く思ったのは、検査値というのは「体の状態」そのものではなく、体の状態を測るものさしなのだということでした。

基準値がどう作られるかについては、以前検査の基準値、誰が決めてるの?に書きました。健康な人の真ん中95%を切り出したものが基準範囲で、それとは別に、治療すべきかどうかを判断する臨床判断値という物差しがある、という話です。

今日書いているのは、その続きです。そちらの物差しは、動きます

血圧の140、HbA1cの6.5、腹囲の85。これらはどれも臨床判断値です。そして臨床判断値は、新しい研究が出れば改訂されます。

当たり前のようですが、結果票を渡される側からは、そうは見えません。数字が上がれば「悪くなった」と思う。当然だと思います。

血圧の「正常」も、60年でここまで動いた

血圧はもっと大きく動いてきました。

収縮期血圧の目安が1960年代の年齢+90から2019年の130未満まで下がってきたことを示す年表イラスト

▲ 「正常」の線は、60年でこれだけ下りてきました。

1960年代、収縮期血圧の目安は「年齢+90」とされていました。60歳なら150、80歳なら170まで正常、という考え方です。1987年、旧厚生省が180/100mmHg。2000年、日本高血圧学会が140/90mmHg以上を高血圧と定めます。そして2019年のガイドラインでは、75歳未満などの降圧目標が130/80mmHg未満まで下がりました。

「だんだん厳しくなっていくばかりだ」と感じる方もいると思います。実際、そういう声はよく聞きます。

ただ、厳しくなったことで見えてきたものもあります

「血圧は年齢とともに上がるもの」「高めでも問題ない」——かつてはそう説明されていました。それを聞いて、治療をせずに過ごした方が少なからずいらっしゃいます。

その方たちが何年か経って心電図や心臓超音波の検査を受けると、心臓の壁が厚くなっていることがあります。高い圧力に逆らって血液を送り出し続けた結果です。そして、ご本人にも自覚がある。苦しいときがある、と。

これは特別な一例ではありません。基準が緩かった時代を過ごした方に、わりあい共通して見られる形です。

基準が下がったのは、下げたほうが脳卒中や心筋梗塞が減ると、大規模な試験で示されたからです。数字を厳しくして脅かしているのではなく、そこに実際の体の変化があるから動いた。私は検査室でその変化のほうを見てきたので、そう思っています。

なお、2024年度から特定健診の「受診をすすめる基準」の線引きが整理されましたが、高血圧の診断・治療の基準そのものは変わっていません。ここは混同されやすいところです。

動いてきたのは、血圧やHbA1cだけではありません

BMIの22、腹囲の85cm、1日1万歩。健診でおなじみのこうした数字にも、それぞれ来歴があります。調べ直してみたら、私自身が知らなかったこともありました。

その話は長くなったので、1日1万歩は、歩数計の商品名だったに分けて書きました。

それでも、私は数字を気にします

ここまで、数字が動いてきた話ばかりしてきました。でも私が言いたいのは、「だから気にしなくていい」ではありません。むしろ逆です。

医療の数字は、その時点でいちばん確からしいとされている線です。将来変わるかもしれない。でも、いま手元にあるのはそれしかありません。「どうせ変わるんでしょう」と言って結果票を引き出しにしまうのと、「今のところの目安はここなんだな」と受け止めるのとでは、5年後10年後がまるで違います

さきほどの、心臓の壁が厚くなっていた方たちのことを考えます。あの方たちは、間違ったことをしたわけではありません。その時代のいちばん確からしい説明に従っただけです。ただ、数字が動いたときに、もう一度誰かに相談する機会があったなら、と思うことはあります。

私がお願いしたいのは、ひとつだけです。「不確実性」という言葉を、頭の片隅に置いておいてください

信じるでも疑うでもなく、片隅に置く。基準値を外れたら、まず主治医に相談する。そのうえで、「この線は永久のものではないらしい」と知っている。それだけで、数字との付き合い方はずいぶん変わると思います。

私自身も、まだ行ったり来たりしています。30年やってきて、数字に対する構えが定まったかというと、そうでもありません。その30年のことは、石の上にも、3日。に書きました。

まとめ

  • 医療の基準値は動く。HbA1cは2012年に0.4%、血圧の「正常」は60年で大きく変わった
  • 動くのは、医学が間違っていたからではなく、検証の方法が進んだから
  • それでも、今ある数字は今いちばん確からしい線。「どうせ変わる」と引き出しにしまわないでください
  • 気になる数字が出たら、まず主治医に相談を。そのうえで「この線は永久のものではないらしい」と知っていれば十分です
  • 「不確実性」という言葉を、頭の片隅に

参考

  • 日本糖尿病学会 HbA1cの国際標準化について
  • 日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」
  • 厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム」

※この記事は、検査技師としての一般的な知識と公開資料をまとめたものです。検査値の見方や基準は施設・項目によって異なります。気になる数値は、必ず医療機関でご相談ください。

おひとりさま検査技師

臨床検査技師として病院に30年。生理検査全般を担当、とくに超音波検査(おもに心エコー)。地方在住・50代・おひとりさま。 検査室から見えることと、暮らしのことを書いています。詳しいプロフィール

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