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2026年9月

健康・検査のこと

1日1万歩は、歩数計の商品名だった|BMI22・腹囲85cmの出どころ

先に、結論から。
・BMIの22、腹囲の85cm、1日1万歩。よく聞く数字にも、それぞれ来歴があります
・1日1万歩は医学研究から出た数字ではなく、1965年に発売された歩数計の商品名から広まりました
・ただし、由来を知ることは、数字を捨てることではありません。歩くこと自体の効果は本物です

一日の終わりに歩数計を見て、9,000歩。あと1,000歩、どこかで歩かなければ。そんなふうに思ったこと、ありませんか。

健診の紙にも、似た数字が並びます。BMIは22、腹囲は85cm。どれも「そういうもの」として受け取っていると思います。

でもこの3つ、それぞれずいぶん違う事情で決まった数字です。基準値そのものが動いてきた話はある日、糖尿病の基準値が0.4%上がったに書きました。今日はその続きで、数字の出どころのほうを見ていきます。

よく聞く数字 どこから来たか いま言われていること
BMI 22標準体重の目安として広まった目標の範囲は年齢で違う。高齢では下限21.5
腹囲 85/90cm2005年、内臓脂肪100cm²に相当する腹囲として女性の90cmは緩すぎないか、議論が続く
1日 1万歩1965年に発売された歩数計の商品名頭打ちは60歳未満8,000〜10,000、60歳以上6,000〜8,000歩

BMIも、実は一律ではない

BMIは22が標準、25以上が肥満。そう一律に語られがちです。

でも厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」では、目標とするBMIの範囲が年齢階級別に定められています。高齢の方では、総死亡率だけを見れば下限は20.0〜21.0付近になるところを、フレイルや身体機能の低下を考慮して21.5に設定されています。

つまり高齢の方にとっては、太りすぎより痩せすぎのほうが差し迫った問題になりうる、ということです。それでも「BMI22が理想」という言い方だけが、年齢に関係なく独り歩きしています。

腹囲85cm、どこを測るか知っていますか

腹囲の男性85cm・女性90cmが決まったのは、2005年です。ところがその後、女性については78cmあたり、77cmあたりという研究が出てきて、「90cmは緩すぎるのではないか」という議論が今も続いています。

ただ、この記事を書くために測定法を調べ直して、私は自分の不勉強に気づきました

腹囲は「立った状態で、へその高さを水平に、お腹を凹ませずに」測ります。ここまでは知っていました。私も、そう教わってそう測ってきました。

でも規定にはもう一つ、続きがあります。内臓脂肪の蓄積でへその位置が下がっている場合は、肋骨の下縁と、腰骨の出っぱり(上前腸骨棘)の中間の高さで測る

腹囲はへその高さで測るが、へその位置が下がっている場合は肋骨の下縁と上前腸骨棘の中間で測ることを示したイラスト

▲ へその位置が下がっているときは、測る高さが変わります。

これを読んで、少し背筋が寒くなりました。

お腹に脂肪がつくと、へそは下がります。つまり、いちばん基準を超えそうな方ほど、例外規定の対象になる。それを知らずに一律にへその高さで測っていたら、その方の数字は本来より小さく出ているかもしれません。

私がこの手順を教わったのは、ずいぶん前の自治体の説明会でした。それ以降、原典を確認し直したことがありません。誰かが確認しているだろうと思っていました。恥ずかしい話です。

基準値のほうは、議論され、検証され、動いていきます。でも測り方のほうは、一度決まると疑われないまま続いていく。この記事を書きながら、いちばん考え込んだのはそこでした。

明日からは、前回の値を確認しながら測ろうと思います。前回と大きく違うときは、体が変わったのか、測り方がぶれたのか、いったん立ち止まる。ただ、新しい情報を取りに行くのは現場の側の仕事でもあるのだと、今回はっきりわかりました。

1日1万歩は、歩数計の商品名だった

私も長いこと、そう説明してきました。でもこの「1万」という数字、医学研究から出てきたものではありません。1965年に日本で発売された歩数計の商品名です。覚えやすく宣伝しやすい数字だったから、1万になった。

ただ、これを「じゃあ歩かなくていい」と読まないでください。由来が広告でも、歩くこと自体の効果は本物です。1万歩を目指して挫折するより、6,000歩を続けるほうが体には効きます。

なぜ、ものさしは変わるのか

長年信じられてきた「常識」の背景には、「そうであってほしい」という願望に加えて、研究の段階で生まれる歪み——バイアスが3つ知られています。

バイアス どこで歪むか たとえば
選択バイアス人を集めるとき健康に関心の高い人ばかりが集まる
情報バイアス答えを聞くときお酒の量を、少なめに申告してしまう
交絡バイアス結果を読むとき飲酒と肺がんの裏に、喫煙が隠れている

選択バイアス。対象者を集めるときの偏りです。アンケート調査をすれば、健康に関心の高い人ばかりが集まり、関心のない人のデータは最初から入っていません。

情報バイアス。「お酒を毎日どれくらい飲みますか」と聞かれて、正確に答えられる人は多くありません。集まった情報自体が歪んでいる状態です。

交絡バイアス。これがいちばんやっかいです。飲酒と肺がんの関係を調べると「よく飲む人ほど肺がんが多い」と出ることがある。でも、よく飲む人には喫煙者も多い。本当に効いているのは喫煙のほうかもしれない。裏に隠れて両方に影響している第三の要因を、交絡因子といいます。見かけ上の因果関係に騙されるのは、たいていこれです。

こうしたバイアスを一つずつ潰しながら、「いちばん確からしい結論は何か」を探っていく。いま定説とされていることは、その積み重ねの上にあります。逆に言えば、いま正しいとされていることが将来ひっくり返る可能性も、決して低くはありません

ここ数年は、健診データや電子カルテ、レセプトデータが研究に使えるかたちで整備されてきました。これまで検証しようがなかったことが検証できるようになった。ということは、これからも数字は動くということです。

それでも、目安は目安として

BMIの22も、腹囲の85cmも、1万歩も、それぞれの事情で決まった数字です。完璧な線ではありませんし、これからも書き換わっていくのだと思います。

それでも、数字の出どころを知ることは、数字を捨てることではありません。いま目安とされている数字は、いまのところ、いちばん確からしい線です。

では、自分の結果はどう見ればいいのか。ひとつだけ挙げるなら、去年の自分の数字と並べてみることです。目安の線をまたいだかどうかだけを見るより、自分がどちらに動いているかのほうが、たいてい多くを語ってくれます。

ただし、これは大きく外れた値を見逃していい、という意味ではありません。去年と同じでも、線から大きく離れているなら、それは相談すべき数字です。数値をつなげて読む話は、50代女性の健診、数値は「つながって」読むに書きました。

その線がどう動いてきたかは、ある日、糖尿病の基準値が0.4%上がったに書きました。

まとめ

  • BMIの22は一律ではない。高齢では目標の下限が21.5に設定されている
  • 腹囲は、へその位置が下がっている場合、肋骨の下縁と腰骨の中間で測る決まりがある
  • 1日1万歩は医学研究ではなく、1965年の歩数計の商品名から広まった
  • 数字が動くのは、選択・情報・交絡というバイアスを潰しながら検証が進むから
  • 由来を知ることは、数字を捨てることではありません

参考

  • 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書
  • メタボリックシンドローム診断基準検討委員会「メタボリックシンドロームの定義と診断基準」(2005年)
  • 厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム」

※この記事は、検査技師としての一般的な知識と公開資料をまとめたものです。検査値の見方や基準は施設・項目によって異なります。気になる数値は、必ず医療機関でご相談ください。

おひとりさま検査技師

臨床検査技師として病院に30年。生理検査全般を担当、とくに超音波検査(おもに心エコー)。地方在住・50代・おひとりさま。 検査室から見えることと、暮らしのことを書いています。詳しいプロフィール

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