2026年8月
健康・検査のことまぶしいのは、数秒です|健診の眼底検査で分かること、分からないこと
暗い部屋に案内されて、あごを乗せて、正面の小さな光を見ていてくださいと言われる。
一瞬、強い光が来ます。しばらく目の前に、緑色が残ります。
健診の眼底検査です。あれ、何を撮っているんだろうと思ったことは、ありませんか。
先に、安心してほしいこと
痛くありません。目薬もいりません。 数秒で終わります。
まぶしいのは光った瞬間だけで、緑色の残像もすぐに消えます。しばらく残っても、心配はいりません。
コンタクトレンズも、たいていはそのままで大丈夫です。歪みが少なければ、つけたまま撮ることもあります。
まばたきが多くなる方は、けっこういらっしゃいます。光が来ると分かっていると、どうしても目が閉じてしまうんですよね。何度か撮り直しになっても、それはよくあることですから、気になさらないでください。
まぶたが下がってきている方(眼瞼下垂)は、まぶたが瞳にかかって写らないことがあります。そのときは、こちらから「少し持ち上げていただけますか」とお願いします。
目の奥の、何を見ているのか
眼底というのは、眼球のいちばん奥です。カメラでいうとフィルムにあたる部分で、ここに光が像を結びます。
写しているのは、おもにこの4つです。
- 網膜(retina)……光を受け取る膜
- 黄斑部(macula)……網膜の中心。ものを細かく見るところ
- 視神経乳頭(optic disc)……見た情報を脳へ送り出す出口
- 網膜の血管……動脈と静脈
このうち、私がいちばん見ていておもしろいと思うのが、血管です。
体の中で、動脈と静脈を直接見られる、数少ない場所
血管の検査はいろいろあります。私がふだん担当している頸動脈エコーもそうです。ただ、あれは超音波の画像で、血管の「断面」や「壁の厚さ」を見ています。
眼底は違います。血管そのものが、色のついた写真に写ります。
体の中を走っている動脈と静脈を、切らずに、そのままの姿で見られる。そういう場所は、体の中にそう多くありません。
だから眼底の血管は、目だけの話ではなく、全身の血管の様子をうかがう手がかりにもなります。
▲ 私の左目です。明るく光っている丸が視神経乳頭で、そこから血管が広がっています。中央よりやや右の、暗く見えるところが黄斑部です。
自分の眼底を見て、驚いたこと
長いこと人の眼底を見てきましたが、自分のものを見たときは、やはり違いました。
まず、血管がこんなにきれいに写るのかと思いました。人のものは何度も見ているのに、自分のとなると、あらためて驚いてしまいます。
もうひとつ。これは、少し恥ずかしい話です。
私は、動脈と静脈の印象が逆でした。
なんとなく、太くて濃いほうが動脈だろうと思っていたんです。血を勢いよく送り出しているほうですから。ところが眼底では逆で、太くて色が濃いほうが静脈。動脈は細くて、真ん中が白く抜けたように光って見えます。
この白い筋は血柱反射といって、血管の中を流れる血の柱に光が反射したものです。
ちなみに、写真が右目か左目かは、黄斑部と視神経乳頭の位置関係で分かります。左右で、ちょうど反対になるのです。
▲ こちらは右目です。黄斑部と視神経乳頭の位置が、左目とはちょうど反対になります。細くて明るいほうが動脈、太くて濃いほうが静脈です。
動脈硬化が進むと、見え方が変わります
その動脈が、細くなってきます。
そして、白っぽくなってきます。血管の壁が厚くなると、光の反射が強くなるからです。進み方によって、銅線のように見えたり、さらに進むと銀の線のように見えたりします。
高血圧が続いている方の眼底では、こうした変化が見られることがあります。
血圧の数字は、測ったその日のものです。でも眼底の血管は、これまでの積み重ねが形になって残っています。そこが、少し違うところだと思っています。
眼底出血は、痛くもかゆくもありません
ここが、いちばんお伝えしたいところです。
眼底出血というのは、網膜やその周りの血管から血が出ている状態のことです。
糖尿病や高血圧、網膜の血管が詰まったことなどに伴って起こる「所見」です。
出血には、新しいものと古いものがあります。色が違います。 小さな点のようなものもあれば、大きく広がっているものもあります。
そして——多くの方は、何も感じていません。
健診で見つかってお伝えすると、たいてい驚かれます。目はふつうに見えているのですから、当然です。
ただ、そのあとで、こう言われる方が少なくありません。
「そういえば、思い当たることがあります」
血圧が高いと言われていたけれど、治療はしていない。健診で毎年ひっかかっていたけれど、そのままにしていた。——そういうお話を、何度も聞いてきました。
体は、痛みという形では教えてくれないことがあります。 目の奥の血管は、黙って先に変わっていきます。
見つけても、私たちは診断できません
ひとつ、はっきり書いておきます。
出血があれば、私たちは見つけられます。でも、技師は診断ができません。
ですから、「ここに出血があります」と部位を指し示して、医師に診断を求めます。それが何によるものなのか、どうするべきなのかを決めるのは、医師の仕事です。
見えているのに、自分では言えない。この線引きは、検査室ではとても大事なものです。
健診の眼底検査で「分からないこと」
ここは、あまり知られていないと思います。
健診の眼底検査は、ふつう無散瞳で行います。瞳を開く目薬を使わない、という意味です。暗い部屋で瞳孔が自然に開くのを利用して撮ります。
目薬を使わないので、そのまま帰れますし、車の運転もできます。 健診で無散瞳を使うのは、そのためです。
ただし、いいことばかりではありません。
瞳が小さいままなので、写るのは眼底の中心付近だけです。眼科で目薬を使って瞳を開く(散瞳)と、周辺のほうまで細かく見ることができます。そのかわり、3〜4時間ほどまぶしさが続いて、その日は運転できません。
つまり——
緑内障は、日本人の中途失明の原因でもっとも多いとされています(2019年度の全国調査で第1位)。視野が少しずつ欠けていくため、かなり進むまで自分では気づきにくいのが、こわいところです。眼底写真では視神経乳頭の様子から、その手がかりを探しています。健診では眼圧の検査(目に空気をあてて測るもの)も一緒に行うところが多く、眼底とあわせて調べています。
受けておいたほうがいい方
眼底検査を受けておいたほうがいいのは、こういう方です。
- 糖尿病がある方
- 高血圧・脂質異常症・腎臓の病気がある方
- 強度の近視の方
- 40〜50歳を過ぎて、眼科での検診を受けたことがない方
- 視力が落ちてきた、ものが歪んで見える、飛蚊症(floaters)、視野が欠ける——といった症状のある方
こういうときは、健診を待たないでください
最後に、これだけは。
・急に視力が落ちた
・視野が欠けた
・黒い影が、急に増えた
・光が走るように見えた
こうした症状があるときは、網膜裂孔(retinal tear)や網膜剥離(retinal detachment)などの可能性があります。次の健診まで待たずに、早めに眼科を受診してください。
こういうものは、様子を見ているあいだに進んでしまうことがあります。
健診の眼底検査は、ほんの数秒です。あごを乗せて、光って、それで終わり。
でもあの数秒に、自分の血管の「これまで」が写っています。
無理をした日も、よく眠れなかった夜も、たぶん少しずつ混ざっています。体の疲れと心の疲れは、地続きなのだと思います。
次に撮ってもらうことがあったら、結果の紙を、少しだけ見てみてください。何も書かれていなければ、それでいいのです。
あの一瞬の光は、それを確かめるためのものですから。
※この記事は一般的な情報と、私自身の検査画像をもとに書いたものです。診断・治療については、必ず医療機関でご相談ください。

おひとりさま検査技師
臨床検査技師として病院に30年。生理検査全般を担当、とくに超音波検査(おもに心エコー)。地方在住・50代・おひとりさま。 検査室から見えることと、暮らしのことを書いています。詳しいプロフィール


