2026年9月
健康・検査のこと去年は軽度、今年は中等度|エコーの脂肪肝判定は、どこまで確かなのか
去年の健診では「軽度脂肪肝」と書いてあった。今年の紙には「中等度」とある。
悪くなったのだろうか、と思われたはずです。
その可能性はあります。でも、判定のほうが動いただけ、ということもあります。
ここからは、判定する側から、その事情をお話しします。
▲ 揺れるのは程度のほうで、あるかないかではありません。
先に、結論から
- エコーの脂肪肝判定には、人の見立てが入ります
- だから、軽度から中等度への1段階は、体の変化とは限りません
- ただし、「あてにならない」という意味ではありません。揺れるところと、揺れないところが、はっきり分かれています
最後の一行が、この記事でいちばんお伝えしたいことです。
どうやって判定しているか
超音波で脂肪肝を見るとき、私たちは肝臓の明るさそのものではなく、隣の臓器との明るさの差を見ています。
隣が腎臓なら肝腎コントラスト、脾臓なら肝脾コントラスト。脂肪がたまるほど肝臓が白く浮き上がり、その差が開いていきます。この見え方は、脂肪肝は、超音波でこう見えていますに画像を載せました。
そのうえで、軽度・中等度・高度に分けます。深いところがどれくらい見えにくいか、肝臓の中の血管がどれくらいぼやけているか。手がかりはいくつもありますが、どこで線を引くかは、最後は画面を見ている人が決めます。
判定が変わる、体以外の理由
体が変わっていなくても、判定が動く理由があります。
判定する人が違えば、変わりえます。同じ画像を見ても、これを中等度と呼ぶか軽度で止めるかは、経験や、その施設での慣れ方によって少しずつ違います。
同じ人でも、年が変われば変わることがあります。去年の自分と今年の自分で、線の引き方がぴったり同じとは限りません。
腎臓のほうに理由があることもあります。肝腎コントラストは、肝臓と腎臓の差を見るものです。ところが腎不全や腎臓の炎症があると、腎臓のほうが明るくなることがあります。腎臓が明るくなれば、肝臓との差は縮まります。つまり、本当は脂肪がたまっているのに、軽く見えてしまう。
だから診断基準では、こういうときは肝脾コントラストのほうを参考にしなさい、と決められています。さらに、脾臓と腎臓を先に見比べて、そこに差がなければ肝腎コントラストを使ってよい、という順番まで示されています。前の記事の脂肪肝の画像で、肝臓と腎臓のとなりに脾臓と腎臓を並べていたのは、このためです。
肝臓のほうに別の理由があることもあります。肝硬変やうっ血肝などでも、肝臓の明るさは上がります。明るいから脂肪、と単純には言えません。
装置や設定でも変わります。機械が新しくなると見え方が変わりますし、皮下脂肪が厚い方では、肝臓に脂肪がなくても深いところが暗くなります。
だから私は、迷ったときには血液のデータも見ます。画面だけで決めずに、ほかの数字と突き合わせてから、判定を寄せていきます。
判定のあいだ、ゲインは動かしません
ここで、少し道具の話をさせてください。
エコーの装置にはゲインという設定があります。画面全体の明るさで、撮る側が手元のつまみで自由に変えられます。暗くて見えにくければ上げるし、白飛びしていれば下げる。ふだんは、そうやって見やすいところを探しながら撮っています。
でも、脂肪肝の判定をしているあいだは違います。
肝腎コントラストが見ているのは、明るさの差です。途中でゲインを動かしてしまうと、差そのものが変わってしまう。肝臓と腎臓を見比べている最中に明るさをいじるのは、片方の皿だけを押しながら天秤を読むようなものです。
だから、判定のあいだはゲインを動かさない。私も、そう教わってきました。ゲインだけでなく、深さごとの明るさの補正も、焦点の位置も、そろえたまま撮ります。診断基準にも、少なくとも同じ施設の中では条件を一定にすること、と書かれています。
もちろん、ほかのところを見るときは調節します。というより、調節しなければきれいな画像になりません。臓器ごとに、いちばんよく見える明るさは違いますから、そのつど合わせていきます。判定のあいだだけ、手を止めている、ということです。
見立てが入る検査だからこそ、入らなくていいところに揺れを持ち込まない。決まりを作って、そこはそろえる。そういう作り方になっています。
進行すると、かえって輝度が下がることがあります
もうひとつ、大事な話があります。
脂肪肝が進んで肝臓が硬くなっていく段階に入ると、肝臓の明るさは、かえって落ちてきます。脂肪をためていた細胞そのものが減っていくからです。画面の上では「軽くなった」ように見えるのに、中で起きていることは逆、ということが起こります。
これは、血液検査のALTで起こることと同じ形です。壊れる細胞が減れば、漏れ出る数値も下がる。FIB-4 indexの計算方法に書いたとおりです。
つまり、軽く見えることが、良くなったとは限らない。ここは、判定する側がいちばん気をつけているところです。
それでも、エコーを受ける意味は変わりません
ここまで読んで、エコーは信用できないのか、と思われたかもしれません。
そうではありません。
主観が入りやすいのは、軽度か中等度かという程度のほうです。脂肪肝があるかないかの判定が揺れることは、ほとんどありません。
肝臓に脂肪がたまっていれば、腎臓との差ははっきり出ます。誰が見ても分かります。迷うのは、その差をどう呼ぶかのところだけなのです。
そして、血液検査が正常でも脂肪肝はあります。数値に出る前の段階で見つけられるのは、いまのところエコーだけです。痛みもなく、被ばくもありません。
程度の呼び方が1段階動いたからといって、この検査の値打ちは変わりません。受けなくていい、という話ではまったくない、とはっきり書いておきます。
数字で補う道具が増えてきました
さきほど、迷ったときには血液のデータも見る、と書きました。ASTやALT、中性脂肪。これは新しいやり方ではなく、以前からしていたことです。
FIB-4 indexは、それをもっと整理された形にしたものだと思っています。年齢と3つの数値から計算するだけで、誰が計算しても同じ答えが出る。手元でやっていた「ほかの情報と合わせる」が、決まった形になった、ということです。
肝臓の硬さを直接測るエラストグラフィーという検査も広がってきました。超音波を使って、その場でかたさが数値で出ます。
見立てを数字が補う。そういう流れになってきています。
結果の紙を、どう読めばいいか
では、手元の紙をどう見ればいいのか。
1年分だけで判断しないでください。去年と今年の2枚より、できれば数年分を並べたほうが、ずっと確かなことが分かります。1年ごとの上下は、判定の揺れに埋もれてしまいます。
「軽度→中等度」の1段階より、ほかの数字の動きを見てください。体重、中性脂肪、血糖値。それらが揃って上がっているなら、判定の変化には意味があります。エコーの判定だけが動いて、ほかが去年と同じなら、見立てのほうが動いた可能性があります。
そのうえで気になるなら、主治医に相談してください。紙を持っていくと、話が早くなります。
まとめ
- エコーの脂肪肝判定には、人の見立てが入ります
- 揺れるのは軽度・中等度といった程度のほう。あるかないかは、ほとんど揺れません
- 腎臓や装置の側に理由があって、判定が動くこともあります
- 判定のあいだはゲインを動かさない、など、そろえるための決まりがあります
- 進行すると、かえって軽く見えることがあります
- 1年分で判断せず、数年並べて、ほかの数字と一緒に読んでください
このシリーズは3本あります。脂肪肝は、超音波でこう見えていますで見え方を、FIB-4 indexの計算方法で硬さの目安を書きました。この記事は、その両方の裏側にあたります。
※この記事は、検査技師としての一般的な知識と公開資料をまとめたものです。検査の判定や基準の扱いは、施設や状況によって異なります。気になる数値は、必ず医療機関でご相談ください。

おひとりさま検査技師
臨床検査技師として病院に30年。生理検査全般を担当、とくに超音波検査(おもに心エコー)。地方在住・50代・おひとりさま。 検査室から見えることと、暮らしのことを書いています。詳しいプロフィール


