2026年7月
健康・検査のこと採血したあの血液、どこへ行くの?|検査技師がこっそり教える採血管の話
・採血した血液は、大半が検査に使われ、残りは医療廃棄物として安全に処理されます。他に流用されることはありません。
・管の色や量が違うのは、検査ごとに使う血液の「部分」が違うから。ムダに多く採っているわけではありません。
・何本も採られても、全部合わせて15〜20mLくらいのことが多いです。1本あたりは、思うより少しだけ。
健診で腕を出したら、採血の人が管を次々に差し替えて、キャップの色が違う管に、何本も——。「そんなに採って、私、貧血にならない?」。そんなふうに、ちょっと不安になったこと、ありませんか。
今日は、採血のあとの血液がどこへ行って、何をされているのか。検査室の中の話を、お話ししますね。
▲ キャップの色は、検査の種類の目印です。
まず、採ったあとの血液はどうなる?
いちばん気になるところから、お答えしますね。
採血した血液は、その大半が検査に使われます。そして検査が終わって残ったぶんは、医療廃棄物として、決められた手順で安全に処理されます。どこかに使い回されたり、勝手に別のことに使われたりすることは、ありません。ここは、安心してくださいね。
なぜ、管の色も量も違うの?
さて、本題です。あの色とりどりの管。なぜ、わざわざ分けているのでしょう。
答えは——検査ごとに、使う血液の「部分」が違うからなんです。血液は、ただの赤い液体に見えて、実はいくつもの成分が混ざり合っています。検査によって、見たい部分がまるで違うのです。
| 検査 | 見ているもの | 使う部分 |
|---|---|---|
| 血算(けっさん) | 赤血球・白血球・血小板の数(貧血や炎症など) | 血液をそのまま(全血) |
| 生化学・血糖 | 肝臓・腎臓・コレステロール・血糖など | 上ずみの液(血清・血漿) |
| 凝固(ぎょうこ) | 血液の固まりやすさ(出血・血栓に関わる) | 薬品と正確な比率で混ぜた血液 |
血算は、血液をそのまま見て、赤血球や白血球の数をかぞえる検査。だから、血液まるごとが必要です。
一方、生化学や血糖で見たいのは、血液の上ずみの液のほう。採った血液を、遠心分離機という機械にかけて、上澄みの透きとおった液(血清・血漿)と、下に沈む赤い細胞とに分けてから、上ずみだけを使います。挿絵の「生化学」の管が、上下に分かれているのは、そのためです。
検査技師が、いちばん気をつかう管
そして、私たち検査技師がとくに神経を使うのが、凝固の管です。
凝固の検査は、「血液がどれくらいで固まるか」という仕組みそのものを見ています。そのために、管の中には血液が固まらないようにする薬品があらかじめ入っていて、血液と薬品の比率が、結果を大きく左右します。
だから、決められた線まできっちりの量を入れないといけません。少なすぎても、多すぎても、正しく測れない。採血のとき「もう少しだけ」と粘っているように見えたら、それはこの比率を守ろうとしているのかもしれません。
それだけではありません。薬品(抗凝固剤)が入った管は、採血したあと、すぐにやさしく混ぜないと、血液が固まってしまうことがあります。固まってしまったら、その検査は、もうできません。採血の人が、管を採ったあとに、ゆっくり上下に返しているのを見たことはありませんか。あれは、薬品と血液をムラなく混ぜているのです(転倒混和といいます)。
こうした「凝固(固まってしまう)・溶血(赤血球が壊れる)・採血量の不足」は、どれも検査の数値に、じかに響きます。だからこそ、私たちは、そこにいちばん神経を使うのです。
採血管のキャップの色は、中に入っている薬品の種類の目印です(施設によって多少違います)。たとえば、血算の管には血液を固めない薬品、凝固の管には別の固めない薬品、生化学の管には血液を早く分離させる工夫——と、色ごとに中身が違います。採血の人が色を見て管を選び、決まった順番で採っているのには、ちゃんと理由があるのです。あの手ぎわには、意味があります。
で、結局どれくらい採っているの?
いちばんの心配、「量」の話に戻りましょう。
一般的な外来の採血では、1本の採血管あたり、だいたい2〜5mL程度。何本か採っても、全部合わせて15〜20mL前後に収まることが多いです。
実は、私たち臨床検査技師の採血には、原則として「1回20mL以内」という目安があります(厚生労働省の通達にもとづくものです)。むやみにたくさん採ることはできない決まりなのです。医師が必要と判断したときには、20mLを超えて採ることもありますが、それも、ちゃんと理由があってのこと。
管が何本もあるのは「たくさん抜かれている」からではなく、「いろいろな角度から、ていねいに調べている」から。そう思っていただけたら、うれしいです。
採血で、貧血になったりしないの?
いちばん心配な、体への影響のお話です。
体の中の血液量は、成人でおよそ体重の13分の1。たとえば体重50kgの方なら、だいたい3,500〜4,000mLほどが体をめぐっている計算になります。
一方、採血で採るのは、さきほどの15〜20mL前後。全体の量からすると、1%にも満たないことがほとんどです。抜けたぶんの水分や成分は、体が少しずつ補っていきます。ですから、採血そのもので貧血になる心配は、基本的にありません。
じゃあ、あの「ふらっ」は何?
「でも、採血のあとにふらっとしたことがある」——そういう方も、いらっしゃると思います。
実はあれ、血液が減ったからではないことが多いのです。多くは、迷走神経反射(めいそうしんけいはんしゃ)といって、緊張や痛み、空腹、脱水などがきっかけで、一時的に血圧や脈がふっと下がってしまう反応です。針や血を見て「うっ」となる、あの感じ、と言えば伝わるでしょうか。
だから、採血のあとは——
- すぐに立ち上がらず、少し座って休む
- 水分をとる(緊張や脱水がやわらぎます)
これだけで、ずいぶん楽になることがあります。ふらっとしやすい方は、採血の前に「私、貧血の気があって」と一声かけておくと、横になったまま採血(臥床採血)してもらえることもあります。遠慮はいりません。
● もともと貧血気味の方/体重がかなり少ない方
● 血が止まりにくいお薬(抗凝固薬など)を飲んでいる方
これらに当てはまる方は、採血のときにその旨を伝えておくと安心です。また、採血量の多い検査や、短い期間に繰り返す採血では、疲れやすさ・だるさを感じることもあります。無理せず、気になるときは遠慮なく相談してくださいね。
おわりに
自分の体から出ていったあの血液が、色分けされた管に収まって、機械にかけられ、いくつもの数字になって返ってくる。そう思うと、健診の結果の紙も、少し違って見えてこないでしょうか。
採血のあとの、ちょっとした裏側のお話でした。次に腕を出すときは、「この管は、私の何を見るのかな」なんて、のぞいてみてくださいね。
ちなみに、その健診の前日にやってはいけないことは、こちらの記事にまとめています。せっかくの検査を、正しい数字で受けるために。血算でわかる貧血のことも、あわせてどうぞ。
※この記事は、検査技師としての一般的な知識をもとにしたものです。検査の内容や採血管は、施設によって異なることがあります。