2026年8月
健康・検査のこと残っている人ほど、気づいていない|残尿を、エコーで見てみました
トイレに行ったばかりなのに、また行きたくなる。
出しきったつもりなのに、なんとなく、まだ残っている気がする。
そういう日が続くと、気になってきます。私も、そうでした。
気になったので、自分を測ってみました
体調によって、尿が近くなることがあります。残尿感も、あるような気がしていました。
過活動膀胱(overactive bladder)かもしれない、と思いました。急に強い尿意がきて、我慢しにくくなる。トイレの回数が増える。夜中にも起きる。そういう状態のことです。
ふつうなら、ここで病院に行くかどうか迷うところです。でも私は検査技師なので、自分で見ることができます。膀胱に尿がたまった状態と、出したあとの状態。その両方を、超音波で。
エコーで、膀胱はこう見えます
その前に、少しだけ仕組みの話をさせてください。
超音波の検査には、得意なものと苦手なものがあります。水分は、よく見えます。 だから、尿がたまった膀胱は、画面の中で黒い丸として、はっきり写ります。
反対に、ガスは苦手です。 腸の中にガスがあると、その先が見えなくなってしまいます。
だから、膀胱に尿がたまっているときは見やすくて、空になったあとは見えにくくなります。この性質が、あとの話につながってきます。
これが、私の膀胱です
左が排尿前です。黄色の点線で囲んだ、大きな黒い部分。ここに尿がたまっています。
右が排尿後です。黒い部分は、なくなっています。残っていませんでした。
それで、少し安心しました。ただし、残尿がなかったからといって、過活動膀胱ではないと決まるわけではありません。あれは尿意の感じ方の問題なので、残尿の量だけでは分かりません。そこは、きちんと書いておきます。
もうひとつ、画面を見て、私は笑ってしまいました。腸のガスが多いのです。 膀胱があるはずのあたりが、ガスに押されて見えにくくなっています。心当たりはあります。便秘気味なのでした。
そんなわけで、私の残尿量は測れませんでした。残っていないうえに、ガスで見えないからです。人の膀胱はあれだけ測ってきたのに、自分のはこれです。
ここからが、意外なところです
仕事で、残尿の測定をすることがあります。トイレに行っていただいて、そのあとにエコーで膀胱を見る、というだけの検査です。
排尿してきたはずなのに、まだ残っている方がいます。
そして、ここが意外なのですが、その方たちに「残っている感じ」がないことが、とても多いのです。
「出しきれていない感じはありますか」とうかがっても、「ないです」と返ってきます。かわりに、こうおっしゃいます。「トイレは近いです」「夜中に何度も起きます」と。
つまり、こういうことが起こります。
- 残尿感のある人に、残っていないことがある
- 残っている人は、残尿感がないことがある。そのかわり、回数が増える
自分の感覚だけでは、意外と分からないのです。私自身がそうでした。気になっていたのに、残っていませんでした。
残尿の量は、エコーで膀胱の縦・横・高さを測って計算します。おおよその目安として、50mLを超えると「残尿あり」と判断されることが多く、100mLを超えると明らかに多い、と考えます。50mLは、大さじにすると3杯ぶんほど。ご高齢の方では少し多めでも様子を見ることがあり、線の引き方は施設や年齢によって少し違います。
検査そのものは、おなかにゼリーを塗って当てるだけです。痛くありませんし、放射線も使いません。
使っているのは、これです
「おなかに当てる」と書いても、想像しにくいと思います。実物をお見せします。
左がゼリーです。その右にあるのが、プローブと呼ばれる、体に当てる部分です。
いちばん大きい、頭の広いものがコンベックスといいます。おなかを見るときに使うプローブです。残尿を測るときも、これを使います。管を入れるようなことは、いっさいありません。おなかに、これを当てるだけです。
真ん中の小さいものはセクタといって、心臓を見るときに使います。肋骨のあいだから当てるので、頭が小さくできています。
右の平たいものがリニアです。体の浅いところにあるものを見るときに使います。
このリニアには、2種類あります。少し深いところまで見えるもので、頸動脈や甲状腺を。もっと浅いところを見るもので、血管や乳腺、皮膚に近い臓器を見ます。形は、ほとんど同じです。 並べても、見分けはつきません。
頸動脈のプラークを見るときも、このリニアを使っています。
同じ「エコー」でも、見るところによって、当てるものが違うのです。
ゼリーのほうも、成分を見てみました。いちばん多いのは水です。そこに、とろみをつける増粘剤と、プロピレングリコールという保湿の成分が入っています。化粧品にもよく使われているものです。
そして、加水分解コラーゲン。検査が終われば拭き取ってしまうので、お肌にいいことが起きるわけではありません。それでも、成分表にコラーゲンの文字を見つけたときは、少し得をした気分になりました。
ゼリーは、冬はもちろん温めてあります。夏は冷たいままにしているのですが、温かいほうがいい、とおっしゃる方もいます。 ここは、なかなか難しいところです。
「出ないんです」と言われたとき
残尿の検査では、こういう場面がよくあります。
「出ないんです」
そういうときは、待っています、とお伝えしています。急かされていると思うと、なおさら出ないものだからです。
エコーには、こういうときに助かる面もあります。膀胱にたまっていなければ、画面を見れば分かります。 「いま、たまっていませんね」と分かるので、無理に待っていただく必要がありません。
反対に、たまっているのに出ないとおっしゃる場合は、画像をお見せすることがあります。「ここに、これだけありますよ」と、ご自身の目で見ていただく。それから、また待ちます。
そして検査の前には、必ずこうお伝えします。「完全に排尿してきてくださいね」。少しでも残して戻ってこられると、それが残尿なのか、出しきれていないだけなのか、分からなくなってしまうからです。
尿の検査でも、同じように「量が足りません」とお伝えすることがあります。そのあたりのことは、尿検査で、私たちが見ていることに書きました。
先をいく先輩たちの話が、分かるようになりました
若いころ、いろいろな方が、こういう話をしていました。職場の先輩たちもそうですし、検査台の上で話してくださった患者さんたちもそうです。私にとっては、どちらも、先をいく先輩です。
そのときは、聞き流していたと思います。自分には関係のない話だと思っていました。
いまは、分かります。実際に経験することが出てきたからです。
隠さずに言えば、尿もれ、頻尿、残っている気がする。そういうことです。年齢を重ねるというのは、こういうことなのだと、身をもって知りました。
あのとき話してくださった方々は、この気持ちを抱えたまま、私に話してくださっていたのだと思います。私はいま、ようやく同じ場所に立ちました。
昔、上司に言われた「病む人の心を」という言葉を、こういうときにまた思い出します。
こういうときは、受診を
自分の感覚だけでは分からない、と書きました。では、どこで線を引けばいいのか。目安を書いておきます。
- 尿がまったく出ない、下腹が張って苦しい → すぐに受診してください
- 尿が出にくい状態や、残っている感じが続く
- トイレの回数が増えた、夜中に何度も起きる日が続く
- 尿がもれる。外出や旅行をためらうようになった
- 血が混じる、発熱がある
「年のせいだから」で済ませなくて大丈夫です。残尿の測定は、おなかに当てるだけで終わります。数分の検査です。
治療の方法もありますし、骨盤底筋を鍛える体操のように、自分でできることもあります。まずは、いまどうなっているかを知るところからだと思います。
おわりに
人の膀胱なら、数えきれないほど見てきました。測って、数字にして、報告書に書いてきました。
その同じ画面に、自分のものが映っています。ガスに押されて、少し見えにくくなっている。
なんだか、ばつが悪いような気持ちで、私はプローブを置きました。
※この記事は一般的なお話です。診断・治療は医療機関でご相談ください。
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おひとりさま検査技師
臨床検査技師として病院に30年。生理検査全般を担当、とくに超音波検査(おもに心エコー)。地方在住・50代・おひとりさま。 検査室から見えることと、暮らしのことを書いています。詳しいプロフィール


